2006年09月24日

都市伝説の語り方

 職場で休み時間に聞いたおはなし。

「この前、『ハーゲンダッツ』という、意味不明な怪談を聞いたんですよ」
「どんなおはなしですか」

 こんなおはなしでした。
「なんかね、家に友達が遊びに来て、いきなり夜中に『ハーゲンダッツ食べたい』って言うんですって。で、じゃあ買いに行こうかと思って二人で外に出たら、なぜかその子はアイスのお店のある場所と全然違う方向に行くの。で、『そっちはお店じゃないよ』って聞いたら、『ベッドの下に鎌を持った男がいた』って言われる、っていう話。意味がわからないでしょう?」
「はあ」
「なんで唐突に鎌?なんでハーゲンダッツ?」


 「ベッドの下の男」という都市伝説があります。
ベッドの下に潜むという殺人鬼の話。一人暮らしの女性の部屋に遊びに来た友人が、夜も更けてからしつこく外に出ようと誘うので、しぶしぶ部屋を出たところ、その友人が血相を変えて彼女に「ベッドの下に包丁を握った男がうずくまっているのを見た。」と言うなどの話。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
 この都市伝説には他にも様々なバリエーションがあり、職場で聞いたものもその亜流であろうと考えられます。
 しかし、そういう由緒正しい都市伝説の系譜を引いているにもかかわらず、「ハーゲンダッツ」はあまり怖くありません。少なくともこれを聞いた職場の方は「意味不明な話」としか思えなかった模様。

 おそらく何人かの語り手を介するうちに、物語として必要な要素が抜け落ちてしまったのでしょう。
 元の都市伝説の部品だけが残り、かつそれが巧く機能していない様子です。

 では、どのような要素を追加すれば「ハーゲンダッツ」は怖い都市伝説として成立するのでしょうか。


 怖いおはなしが苦手な妹に「ハーゲンダッツ」を語ってみました。
「……というおはなし。怖い?」
「んー、あんまり怖くない。リアリティがないもの。まあ、確かに鎌を持った男がいたら怖いだろうな、とは思うけれど……」

 現実味が薄い。
 唐突な感じがする。
 ハーゲンダッツの必然性がわからない。

 それらの感想を踏まえて、おはなしを再構成してみることにしました。
 身近な話題として前置きをし、不審者が出てくる伏線を張り、ハーゲンダッツが自然に出てくる文脈をすこし思案。
 じゃあもう一回同じおはなしをするねと断り、世間話のような調子で妹に話し掛けます。

「うちの大学にね、1人暮らしの女の子がいるの。その子がいわゆるストーカーの被害に遭ってね。どうも最近誰かに付きまとわれてる気がする、怖いから泊まりに来て、って言って、お友達を家に呼んだの。
 で、まあ夜中に一緒にテレビ見たりお喋りしたりしてだらだらしていたんだけれど、急にそのお友達が
『ねえ、アイス食べたくない?』
 って言い出したのね。
『アイス?いや、別に』
『私は食べたいの!ちょっとコンビニまで買いに行こうよ』
『そんなに食べたいなら、冷凍庫に雪見だいふくがあったと思うけど……』
『ハーゲンダッツが食べたい』
『わがままだなあ。おいしいのに、雪見だいふく』
『ほら、他にも化粧水とか忘れちゃって、買っておきたいし。ひとりで行くの怖いし、ね、行こうよ行こうよ早く行こうよ』
 面倒だなと思ったんだけれど、お友達があんまりごねるから根負けして、ふたりでコンビニに行くことにしたわけ。
 なのに、家を出た途端にそのお友達が早足になって、しかもコンビニとは全然違う方向に行こうとするの。
『ちょっと、どうしたの』
『いいから急いで!警察に行くよ!』
『え、何で』
 聞くとそのお友達は凄く怯えた顔で、こんな風に言ったの。
『さっき偶然見えたの。ベッドの下に誰かが潜りこんでいて、ずーっとあなたの方を見ていた……!』
 で、そのあと慌てて二人で警察に駆け込んで」
「もういい!怖いからいいっ!」

 おびえられました。

「いや、私が今即興で作ったおはなしだってば」
「でも怖いものは怖いの!」
「さっきのと内容は殆ど同じなのだけれど。鎌をなくした分、むしろ私のおはなしの方が平和なくらいのはずよ?」
「そうかもしれないけど、なんか会話とかが挟まれてる分変にリアルで」
「おいしいよね、雪見だいふく」
「おいしいよね。……うん、なんかその辺が『ありそう』な感じで、だからか最後のほうもさっきより怖くて」
「ううん」

 怖いおはなしに改造するという目標は達成したようなのですが、それが部品交換の成功によるものなのか、それとも単純に語り口を変えたことが成功したのか、それは未だに不明なままです。
 こうして文章に起こしてみると、そう怖いおはなしになったとも思えないのですが。読むのと聞くのとでは、また印象が異なるのかもしれません。

 怪談大会などの際に、上二つのおはなしを語り比べる実験を行ってみると面白いかと思います。
 更に元のおはなしに自分なりの翻案を加え、どれだけ面白いものにできるかと挑戦してみるのも楽しいかも。
 是非ご利用ください。
 こうやって怪談は語られながら成長していくのだなあと思うと、とてもわくわくします。

 こわいので、夜中に聞きたくはありませんが。
posted by にくす at 02:12| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
突然『ベッドの下に…』ていわれてもっていう感じですね。怪談話を電車内の電光掲示板で流したらそんな感じで要約されてしまうような、そんな感じ。無駄がないというか、必要な要素すら削ってしまってるような。
怖い話…一度怖い話をする稲川某のライブへデートしませんか、なんてね。
Posted by MOMOCO at 2006年09月24日 20:55
>必要な要素すら削ってしまってるような
 その通りだと思います。
 どれが必要な要素で、最低限どれだけの部品を残せば「無駄のない怪談」として成立するのか、追求してみたい気もします。
 小泉八雲の『むじな』などは無駄がなくて美しいつくりだと思うのです。

>一度怖い話をする稲川某のライブへデート
 勉強にはなりそうなのですが……怖いです。
 巧い方のおはなしは妙に気持ちに貼り付いて来ますからねえ。ううん。
 眠れなくなると困るので、もし行く場合はしっかり朝までお付き合いいただきたく存じます。
 その際はこちらも、誠心誠意手持ちの妖怪譚などを披露させていただきます。朝まで!みっちり!延々と!
(ひとのおはなしを聞くのは怖いけれど自分で話すのは平気、という不思議)
Posted by にくす at 2006年09月25日 17:57
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